京都学派と日本海軍―新史料「大島メモ」をめぐって (PHP新書)



京都学派と日本海軍―新史料「大島メモ」をめぐって (PHP新書)
京都学派と日本海軍―新史料「大島メモ」をめぐって (PHP新書)

ジャンル:歴史,日本史,西洋史,世界史
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西田幾多郎の戦争責任

 陸軍の台頭を海軍への荷担により抑止しようとしたがミッドウェー海戦を分水嶺に陸軍にまで関与せざるを得なかった哲学者・西田幾多郎と京都学派の思想上の経緯が迫真の筆致で跡付けられている。
 しかし、官憲にしょっ引かれて獄死までする東大や早大その他の知識人、文化人とは違い、京都の学人は別の苦悩があったにしてたところで不条理なものではあれ論戦、思想戦にどう対処すべきかどうかというだけの問題であったのだ、と言えばそうも言える。超然と世界主義の哲学を語り一貫して帝国主義戦争に反発しながらも、完全に隠遁死滅していない以上現実に発生し終結する戦争に付かず離れずの関係があった、開戦も単なる憤怒では阻止できず大戦の方向性を軌道修正することも只の座談では能わず最終兵士として駆り出されたりもしないままに自国軍部との思想戦に敗れつつそれでも矜持を持たんとする日本人として終戦を迎えた、というそういう事実からはいずれにせよ免れられない。その結果が哲学者の戦争責任である、と言えばそれもそう言う他ない。
 ただ、西田と京都学派、特に西田自身の思想的内実に軍事主義の要素は聊かも含まれていない、寧ろそういった要素に、避け得なかったその最も深刻な問題に強力な免疫力を示していたことは本書の主旨としても今日再評価されていることのなかにも含まれていることは知っておいていいだろう。
この国の戦前・戦中・戦後を問い直す

 この書はもちろん1940年代前半の「戦中」日本における国家と思想、「戦争と哲学者」の問題を中心に扱っているのだけれども、その前の「戦前」の1930年代からの動向だけでなく、その後の「戦後東京裁判史観」とでもいうべきこの国の知識人・文化人の風潮をも射程におさめていて、新資料にもとづきつつ、戦前・戦中にとどまらず戦後までも問い直す問題提起となっている。失われたものと思われていた「大島メモ」が、運よく書棚の奥から発見された2000年という時期が、大局の流れのなかで、まるで歴史的必然であったかのような意味をもっている。
 この国の戦前・戦中とは何だったのか、くわえて戦後とは何だったのか、二十一世紀の視座からあらためて問い直すのに格好の書。
 手に取った時は、ひょっとしてハイデガーやユングらに対してと同様、第二次大戦中の京都学派の隠された罪行を暴露、告発する本かと思ったがそうでなく、読後感はむしろ逆で、なかでも西田幾多郎という人は十分尊敬に足る人物だということが確認できた。



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